「外へ向かう旅」と「内へ向かう旅」
G. パイクとD. セルビーのグローバル教育論の独自性
小関 一也
私たちが世界を学ぶために外に向かって旅するとき、私たちはまた自己の内を探る旅に出かけている。 2つの旅は、互いに補い合い、応答しあい、響きあっている(Selby,1999,p.132)。
パイクとセルビーのグローバル教育の核心は、「グローバルな世界」を探求すると同時に「グローバルな自己」を探求することにある(Pike & Selby,1999,p.14)。 この「世界」と「自己」の探求の相即性こそ、彼らの理論と実践をもっともよく特徴づけている。 この小論では、「外へ向かう旅」と「内ヘ向かう旅」の2つを視軸として、パイクとセルビーのグローバル教育論の独自性について論及してみたい。
註
1. 厳密には、深い精神的次元(魂やスピリットの次元)を含むか否かを境界線として、システム理論とホリスティック論は同一ものではないが、 近年の2人の研究動向は、明らかにより客観的なシステム理論からより精神性を重視するホリスティック論へと移行している。 システム理論とホリスティック理論の違いについては、中川吉晴『ホリスティック臨床教育学』に詳しい。
2. ディープ?エコロジストにとって、自然は守るべき対象ではなく、人間を包み込む生命そのものであり、あらゆる多様性に開かれた全体性(宇宙)へと通じている。 彼らの言う大文字の「自己実現(Selfrecalization)」は宇宙と同一化するスピリチュアルなプロセスであり、 地球生命全体を自己のアイデンティティとするような深いつながりのあり方を示している(Nacss,1985)。
3. セルビーは自己の存在を「分離した自己」「関係を結ぶ自己」「ダンスする自己」の3つに分類する。 このうちウェブモデルが描き出す「関係を結ぶ自己」は、未だに存在が一義的で関係は二義的であるという。 これに対して「ダンスする自己」は、関係が一義的で存在は二義的となる。 すなわち、存在は「全体の動的展開」における「生成の表現」として、絶えず生成変化する全体とのつながりの中ではじめて意味を持つことになる(Selby,2001)。
4. 私がデイヴィットにジャック(Jack [John.Pj Miller])を博士論文の副査に迎えたいと相談したときに、デイヴィットは「まったく問題ない。 私こそがジャック?ミラーだ」と答えたことがある。 それほど、パイクとセルビーのグローバル教育論はミラーのホリスティック教育論と結びつきが深い。
5. グローバル教育の学びを、「トランスフォーメーション」と「物語」をキーワードに読み解くことが、私の研究課題でもある。 このテーマについては別稿でさらに掘り下げたい。 なお、パイクとセルビーのグローバル教育を物語を視点にアプローチした論文としては、田中昌弥論文を参照されたい。